オーロラ

2001年3月21日

北極圏の原野でオーロラを見て、僕が感じたのは、恐怖でした。
夕飯を食べ終えて外に出たら、空にゆらゆらと動く、おおきな煙のようにも見える、 光がありました、明るい部分は背景の星が見えないほど明るく、暗い部分は夜空の闇に溶けるようにも見え、まるで誰かがすきとおった星空の丸天井に「ふうーっ」と光る息を吹きかけたような様子でした。
カメラを準備して、外に出て、車に乗り込み、昼間のうちに決めておいた場所に向かいました。外気温はおよそマイナス20度、防寒具に身を固めていても、外に出ると、じわじわと寒さがしみ込んでくる圧迫感のようなものを感じます。

見上げればいつの間にか空一面に様々な形と動きのオーロラが展開していて、それはまるで何かの意思のように、強く光ったり、消えそうになったり、突然現れたり、消えたりしているのです。

自分が今までに知っている、空にあって光り動くもの、雲、星、月、太陽、流星、、、そのどれとも似ていない、オーロラは今までに見たこともない光と動きで天空にありました。空気の流れにも重力にも支配されていないように見える独特の動きです。「ゆらゆら風に揺れる光のカーテン」そんなものを想像していたら大間違いです。オーロラはもっと怖いです。その動きの向こうに何か意思の存在を想像してしまって、怖くなったのです。僕は「龍」のことを想像しました。目に見えない巨大な龍が、空のあちらこちらで光る息を吐いてるような気がしたのです

そんなオーロラを見上げながら、極寒の原野に立っていると、自分はそこにいるべきではない存在のように思えて来ました。そこに立っていることがとても不自然なことに感じたのです。
でも、ふと考えてみると、初めてオーロラを目にした驚きは、初めて自然に触れた時の驚きとあまり変わらないものなのかもしれません。普段身の回りで、花が咲いたり、鳥が鳴いたり、風が吹いたりすることをあまりにも当たり前の事のように感じ、そんな体験を「自然はいいな」って言葉の中に自分で押し込めてしまっているけれど、畏怖すべきものは実は身の回りに幾らでもあってそれらはきっとオーロラに負けず劣らずの神秘的な出来事なのだと思います。

知識にしたことで、安心してしまって、身体(それともたましいとでも言うのでしょうか)で感じるということを、ちょっとおろそかにしてしまっているのかもしれません。
驚きは、対象の中になくて、自分の中にあるものだということを、あらためて思い知らされたような気分です
もう一度みたら、きっとこんな気持ちにはなれないのかも知れません。もう少し冷静に、これはどんな色だとか、どんな形だとか、動きだとか、、、そうやってオーロラさえも知識としてストックしようとするのでしょうか。もちろん科学的にそれはある程度説明のつく現象であるのですが、科学的な認識の仕方が常に最良の認識とは限らない気がします。

小さな人間の考えなんかおかまいなしに、誰かが見ていようがいまいが関係なく、またあの寒い北の空で、龍の吐く息のような、オーロラは光り、動いているのです。
そんな風に、オーロラの事をちょっと想像することができるのは、なんとなく嬉しいことです

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